「漢書」は後漢の史書官だった班固の編纂物だ。
帝位を簒奪して前漢を滅ぼした王莽を悪く言う気概はあっても、
前漢の為政をあえて悪く言うような理由はどこにもない。
それでも「漢書」の帝紀にすら、歴代皇帝の為政の問題点を
厳しく指摘するような記述が多々見られるし、逆に王莽の為政が
始めのうちはそれなりによくできていたとすらも記録している。
むしろ「史記」以上にも、為政に対する批評姿勢は厳しい。
だからこそ「漢書」のほうが後々の正史編纂の模範ともなった。
「日本書紀」などの日本の正史も、多少の誤記はあるとした所で、
大きく史実を捻じ曲げているようなことまではない。政争に
敗れた旧豪族などの扱いが低いとしたところで、それも「漢書」
のような書くべきことを書き、書くべきでないことを書かない
春秋の筆法に即していればこそ。ただ史実を後世に残すだけでなく、
そこに教育的な意味合いすらもが込められている。それこそは、
ただの博物的な歴史学をも上回る正史学のあるべき姿勢なのだ。
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