A 入学を決める前に、父は監督と面談をしている。実は監督の悪い噂も多少は耳にしていた。しかし実際に会った監督は、非常に物腰も柔らかく、懐の深さも感じた。 「私も昔は殴るのが普通だと思っていました。でも今はダメですよね」父は、この人ならしっかりと話もできるし、息子を任せられると思った。 1年生の時は、順風満帆だった。早々とスタメンで起用され、父がAに電話をすれば、元気な声が返って来た。ところが1年生の終わり頃から、少しずつ態度が変わり、口数が減った。 父が異変に気づいたのは、2年に進級してからだった。メールで何度か問いただしてみると、ごく短い返信が届いた。
「サッカーが苦しい…」
B 校内で“王様”には誰も口出しができず、監督も指示を出す時は他の選手を迂回した。ちなみに“王様”は現役Jリーガーである。 Bがそんな惨状を知ったのは、既に進路を決めた後だった。「先輩は僕よりずっと酷い目にあっていたそうです。上級生と同じ屋根の下で寮生活だったので、まったく逃げ場がありませんからね」 結局Bは退部して「サッカーは、もういいや…」と思った。