「もう1度、同じような場面になっても、俺は同じようにファウルをしてでも止めると思いますよ」−。
G大阪のDF岩下敬輔(28)は、そう言った。
「同じような場面」とは、5月16日にあったG大阪−川崎F戦(万博)でのこと。
1−1で迎えた後半ロスタイムに“事件”は起きた。
川崎FのFW大久保嘉人(32)が、タッチライン際のボールをうまくトラップして、すぐに前を向いた。
まさしく失点のピンチだった。
その瞬間、岩下は両手で大久保の肩と左腕をつかみ、まるでラグビーのタックルのように倒した。
悪質なファウル。そんな表現がピッタリだった。1発退場でもおかしくなかったが、主審が出したのはイエロー。
「あそこで点を取られて負けていたら、もう優勝なんて言えない状況になっていましたから。
俺は悪者になったっていい。チームを優勝させるためには、ね」
体を張り、批判にさらされるのも覚悟して得た、勝ち点1。
そんな岩下が、救われた言葉があった。
(試合後)家に帰ったら、嫁さんが『(大久保)嘉人さんが、こんなこと言ってるよ』って、ネットの記事を見せてくれたんです。
やっぱり、嘉人さんはスゲー、選手ですよ」
岩下のラフプレーに得点を阻まれ、引き分けに終わった試合後のこと。大久保は報道陣に、こう言った。
「あれはナイスファウル。岩下やろ? ナイスDFやと思いますよね」。
悔しかったに違いない。現に、倒された直後、大久保は怒りをあらわにして主審に執拗(しつよう)に抗議をした。
それでも、ラフプレーを受けた岩下を褒めたのだった。
2度の欧州移籍と、W杯も2度、経験した大久保はよく「日本はまだ甘いよ。あんなんじゃ世界には勝てない」と話していた。
そんな大久保だからこそ、言える言葉だった。
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